-輸送系・各論-

【促進拡散】
・輸送体蛋白を介して電気化学的勾配に従って行われる輸送である。
・単純拡散と違い、拡散される物質は輸送体しか通過できないので拡散部位に限りがある。そのため濃度勾配が強くなっても拡散速度には限界がある。
・促進拡散の速度曲線は一般に単純な酵素反応速度特性を示し、単純拡散の速度を上回る。

・促進拡散の代表はグルコース輸送体であるGLUTファミリーである。ほとんどの細胞はGLUT1を発現しており、細胞外から栄養源であるグルコースを細胞内に取り入れる機能をもつ。
・GLUT2は肝細胞および膵頭β細胞で発現し、GLUT1に比べ高いグルコース輸送能を持つ。このためこれらの細胞のグルコース吸収能力は高く、肝では過剰グルコースを取り込みグリコーゲンを合成するのに、膵頭β細胞では血糖値の変化を鋭敏にとらえることに役立っている。
・GLUT4は脂肪細胞や筋細胞に分布するインスリン応答性のグルコース輸送体である。普段は細胞内の膜上に存在するが、インスリンの刺激によって細胞膜と融合し細胞表面に出てグルコース取り込み能を増加させる。この過程に異常が生じると糖尿病の原因となる。

【能動輸送】
・ATPのエネルギーを使い、濃度勾配に逆らってイオンや低分子を輸送する。これを行うのはATP依存性ポンプである。
・ATP依存性ポンプは、さらにイオンを通過させるものとイオン以外の低分子を通過させる(ABCスーパーファミリー)に大別される。

・Na-Kポンプは、ATPのエネルギーを利用して、3個のNaイオンを細胞外から細胞内へ、2個のKイオンを細胞内から細胞外へ輸送する。これによってNa,Kイオンの濃度勾配が維持されている。

・Na-Kポンプで形成されたNa濃度勾配は生理的に重要である。神経細胞では興奮によってNaチャネルが開口しNaイオンが濃度勾配に従って流入することが脱分極に大きく寄与する。また、Naイオンが細胞内流入するときの自由エネルギー変化は負である(ΔG=-3.06kcal/mol)。このエネルギー変化を利用して、他のイオンや低分子の輸送が行われることがあり、これを二次性能動輸送という。

・Na-グルコース共輸送系は2分子のNaを細胞内に取り込む際に生じたエネルギー変化を利用して一分子のグルコースを細胞内に取り込む。理論上、2個のNaイオンを取り込むことによって細胞内部のグルコース濃度は外部より30000倍高くできる(Naイオン1個だと170倍)。そのためこの系は、かなり大きな濃度勾配に逆らってグルコースを吸収する細胞、具体的には小腸上皮や腎尿細管に存在する。

・3Na/Ca対向輸送体は心筋細胞膜にあり、3個のNaイオンを取り込み1個のCaイオンを排出する。これによって心筋細胞質のCaイオン濃度は低く保たれている。ウワバインやジコキシンはNa/Kポンプを阻害してNaイオンの濃度勾配を下げることにより、3Na/Ca対向輸送体によるCaイオンの排出を抑え細胞内Caイオン濃度を高く保つ事によって心筋の収縮力を増す。

・筋肉のCaポンプは筋小胞体上に存在し、SERCAと呼ばれる。SERCAは筋小胞体内へCaイオンを取り込み、筋小胞体のCaイオンの貯蔵に役立っている。

・ABCスーパーファミリーの代表は多剤耐性輸送蛋白質(multidrug-resistance(MDR) tranport protein)である。薬剤耐性を得た細胞ではMDR1蛋白が過剰発現しており、細胞内に吸収された薬物を細胞外に排出する。
・ABCD1はペルオキシソーム上に存在し、分子量の大きい脂肪酸をペルオキシソームに取り込み分解させる働きを持つ。このポンプが欠損が生じると高分子量脂肪酸が細胞質内に蓄積し毒性を示す。これがX-linked adrenoleukodystrophy(ALD)の原因である。
・ABCA1は細胞膜でリン脂質やコレステロールを輸送する。このポンプが欠損するとタンジール病(Tangier’s disease)の原因となる。

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